大人も子どもも環境が新しく変わることが多い新年度。入園、入学を終えたお子さんたちは新生活に慣れてきたでしょうか。ゴールデンウィークが明ける頃には緊張感も和らいでくるかと思いますが、同時に、ちょっとした気の緩みから体調を崩す場合もあります。
今回はそんな時にも思い出して欲しい、薬に関するちょっとした疑問について、薬剤師の資格を持つママが自身の子育て経験も踏まえてお伝えします。
40度近いのに元気がある…熱を下げる薬を使う?使わない?
熱冷ましの薬を使うかどうかの見極めポイント
平熱が36.0度付近である大人と比べ、子どもは体温が高いのが一般的。保育園や幼稚園では、37.5度以上を発熱とみなすところも多いです。
そして私自身が子育てをする中で驚いたことのひとつに、「39.0度以上あるのに、子どもがいつもと変わらず元気に走り回っている!」があります。
似たような経験があるママ友は多く、37.0度を越えただけで体のだるさや寒気を感じやすい大人にとって、なかなか理解しにくい現象ですよね。
そこで迷うのが「熱冷ましの薬を使うかどうか」です。
見極めポイントは次の3つです。
①機嫌が良いか、元気があるか
②水分補給できているか
③よく眠れているか
熱を下げる薬は解熱剤(げねつざい)と呼ばれ、病院で処方してもらう時には「38.0度以上の時に使う、1日3回まで」「38.5度以上で使用、6時間あける」といった指示付きの場合が多いです。
しかし解熱剤は、必要なければ使わなくても良い薬です。たとえ指定より高い熱が出ていても、普段と同じように活気があればひとまず薬なしでそのまま様子を見ても大丈夫です。逆に、食欲がない、ぐったりしている、なかなか寝つけないといった症状があれば、37.0度台であっても使うべき薬とも言えます。
診察の際には、「38.0度までなくても、具合が悪そうな時は使っても良いですか?」と先生に確認しておくと安心ですよ。
解熱剤の種類
子どもが使う主な解熱剤には、飲み薬、坐薬の2種類があります。どちらも効果は同じですが、年齢が低いほど優先的に坐薬を処方される場合が多いです。熱があり、食欲もない時は、たとえ少量の飲み薬でも嫌がってしまうことがあります。そのため、体調に関係なく使用できる坐薬がいざという時に役立ちます。
坐薬は、オムツ交換をするときのように子どもを仰向けに寝かせ、両足を上げた状態で肛門に挿入します。初めての場合は、大人が緊張するかもしれません。けれども、怖がって中途半端に挿入してしまうと、坐薬が出てきてしまうことも。体温で溶けやすくなっているため子どもがいつまでもおしり付近に違和感を感じることもありませんし、しっかり奥まで挿入してあげてください。
飲み薬の場合は、特別な注意点はありません。他の風邪薬と同じように、指示された飲み方で、1回の量や時間の間隔を守って使用してくださいね。
薬を嫌がって飲んでくれない時はどうしたら良いか?
嫌がっている原因は?
子どもが薬を嫌がって飲んでくれない、口に入れてもすぐ吐き出してしまう、などのお悩みは非常に多いです。子どもの年齢が低ければ低いほど、薬がどんなに大切なものだと説明しても、イヤなものはイヤ!と泣くばかりで、なかなか理解してくれませんよね。以前は喜んで飲んでくれたのになぜ今回は嫌がるのか分からず、親の方が泣きたくなることもあるでしょう。
そんな時は、子どもが薬を嫌がる理由を探ってみましょう。よくある原因には次のようなものがあります。
・ご飯を食べた直後ですでにお腹がいっぱい
・前に薬を飲んで苦かったなどの嫌な記憶がある
・鼻が詰まっていて飲み込みにくい
・吐き気がある、飲み込む時に喉が痛い
・そもそも食欲がない
・イヤイヤ期で特に理由はない
乳幼児期の子どもはまだ、自分の状態を正確に言葉で表現することができません。「薬を飲みたがらない=薬が嫌い」と決めつけずに、体調面も含めて、改めて嫌がる原因を考えてみましょう。決して無理やり飲ませようとせず、「そうだよね、飲みたくないよね」と子どもの心に寄り添いながら「元気になるためにも飲んでくれたら嬉しいな」と親としての気持ちを伝えてみてください。
症状に応じて優先順位をつける
そうは言っても、やはり必要な薬はきちんと飲んで欲しいですよね。単なる風邪の場合でも、抗生剤、鼻水を止める薬、咳止めの薬、整腸剤など数種類の薬が出されることも多く、子どもに服用を拒否され、頭を抱えた親御さんも多いかもしれません。
飲むべき薬が多いにもかかわらず、子どもが飲みたがらないときは、優先順位をつけることをおすすめします。
例えば、嘔吐が激しい場合は、何よりもまず吐き気止めが優先です。少し様子を見て、吐き気がおさまったところで他の薬を飲めば良いですし、整腸剤から飲ませてもすぐに吐いてしまうかもしれません。
また、発熱でぐったりして食欲もないときには、熱を下げる薬を先に使うのが良いでしょう。平熱に近づき、少し活気が戻ってきたところで食事や他の薬をあげるというのもひとつの手段です。
もちろん、毎回すべての薬を飲むことが理想ですが、どうしても嫌がってしまう場合は薬の服用自体が子どものストレスになる場合もあります。このあたりのバランスは、子どものことを一番よく知っている親が見極めてあげることも大切です。
余った薬は取っておいて良いのか
保存できる薬とできない薬、保存期間について
病院・薬局でもらった薬の中には飲み切らずに残ったときに、保存しておけるものと、そうでないものがあります。ここでは、風邪薬でよく処方される薬(解熱剤、鼻水を止める薬、咳止め、痰切り、整腸剤、抗生剤など)を想定してご紹介します。
<保存できないものの代表例>
- シロップの薬
- 抗生剤
<保存できるもの代表例>
- 薬局で1回分ずつ分けてくれた粉薬
- 医薬品メーカーが製造した状態のままの薬
シロップの薬は、冷蔵庫で保管し、期限の目安は1週間程度です。それ以降は雑菌が繁殖しやすいので、残った場合も破棄してください。抗生剤は、もらった分は最後まで飲み切ることが大前提です。たとえ風邪の症状がおさまっても、体内のウイルスが全て死滅したとは限りませんし、次に風邪をひいた時に同じ抗生剤が出される保証もありません。なるべく飲み忘れのないように、全て飲み切るようにしてください。
保存できるものの中でも、薬局で粉薬を測りとって1回分ずつ分けてくれたものは、湿気やすい傾向にあるので注意が必要です。ジッパー付きの大きめの袋に乾燥剤と一緒に入れておくことで、薬の劣化を防げます。どれくらいの期間を目安にすれば良いかは、各薬局で確認してみてください。一般的には、3〜6ヵ月と返答する場合が多いです。(保管をすすめない場合もあります。)
メーカーが製造した状態のままの薬は、未開封であればメーカーが定める使用期限までは保管可能です。ただ、薬局で受け取ってしまうと、期限がわからないことがほとんどです。頓服(とんぷく)と呼ばれる薬は症状のある時だけ飲むものなので、頓服薬の消費期限は薬局の窓口で聞いてみても良いかもしれません。
保存した薬を使う時の注意点
乳幼児期の子どもの飲み薬の量が何によって決まっているかご存知でしょうか。実は子どもの体重から毎回薬の量を計算しています。病院でも薬局でも、必ずと言っていいほど子どもの体重を確認されるのはこのためです。
仮に保管できる薬が有効期限内であっても、数ヶ月も前にもらった薬ではすでに子どもの体重が増えていて、飲む量が変わっている場合があるので注意が必要です。つまり、子どもが成長して体重が増えた場合、飲むべき薬の量も増えていることがあるということです。
子どもの成長スピードは個人差があるため一概に言えませんが、3か月〜半年以上前にもらった薬は、もらった薬の量が現在の体重に合っていない可能性もあるため、受診し直すのが安心です。
花粉症について
花粉症の症状を抑える薬
最後に花粉症についても触れておきます。2019年の調査では、0才〜4才までで25人に1人、5才〜9才で3人に1人、10〜19才では2人に1人がスギ花粉による症状が出ていることがわかりました。これは20年前と比べ、約2〜3倍に増えています。
目のかゆみや鼻水が主な症状だと思いますが、花粉シーズンに使う薬としては、目薬のほか、風邪の時にもらう鼻水止めや鼻用スプレーの薬で対応していきます。これらは対症療法(たいしょうりょうほう)と呼ばれ、あくまで薬で症状を抑えているにすぎません。飲み忘れが続くと、症状が強く出てきますので、花粉シーズンはしっかり薬を服用していくと良いでしょう。
花粉症そのもの根本的に治療する薬
2018年、5才から服用できるスギ花粉の新しい治療薬が登場しました。これは3年〜5年間、毎日薬を飲み続けることで根本的にスギ花粉を治すことが期待できる薬です。完全に治らなくとも、多くの患者さんで花粉シーズンの辛い症状が軽減されることが分かりました。
スギ花粉のシーズンが終わる6月頃から治療を開始することができるため、気になる方はかかりつけの小児科や耳鼻科で相談してみると良いでしょう。アレルギー検査が必須な上、飲み方が少し特殊で最初の1〜2か月は通院頻度も多いです。十分説明を受け、納得してから検討してみてくださいね。
まとめ
アレルギーや持病がない場合、普段の生活で薬を使うことは少ないと思います。しかし、子どもが病気になった、風邪が長引いている、などの状況になった時には意外と「あれ?これはどうすればいいの?」と素朴な疑問が出てくるものです。夜間で困った時にはどこに連絡をすれば良いか、病院を受診する判断基準を何にするかなど、いざという時に焦らないためにも、普段から心の準備をしておけると良いですね。