産後クライシスとは、産後から数年の間に夫婦関係が急激に悪化することを言います。最悪の場合離婚に至るケースも少なくありません。
先輩夫婦たちはどのようにして産後クライシスを乗り越えたのでしょうか?
なりやすい人の特徴も合わせて解説していきます。
産後クライシスとは?原因は?
産後クライシスとは、出産後から数年間のうちに夫への愛情が急激に冷めたように感じ、夫婦仲が悪化することを言います。
産後の女性はホルモンの変化であったり、育児による寝不足など、生活面での変化や負担が大きくストレスもとても溜まりやすい状態にあります。そしてそのストレスや負担を解消することも実際難しい状態な場合もあります。
そしてそんな日々の生活の中で、夫婦がお互いにストレスを溜めて関係が悪化していく。
これが、産後クライシスの大きな原因の一つであるとされています。
産後クライシスの「クライシス」は、「危機」という意味です。そして、産後クライシスは決して珍しい事ではなく、誰にでも、どの夫婦でもなる可能性があるものです。
「妻が変わってしまった。だから妻が悪い」「指示待ちの旦那が問題だ」など、妻にも夫にも様々な状況や理由、言い訳もあるでしょう。
しかし、行動しなければ現状は変わることがなく、産後クライシスを乗り越えることが困難になる可能性もあります。最悪の場合、離婚という選択肢に繋がることも少なくありません。
産後クライシスの原因をしっかりと理解して、対処法を知っておくことが大切です。
産後クライシスで離婚する人たちは意外にも多い!?
産後クライシスに陥り、離婚する人たちは意外にも多いと言われています。
厚生労働省の「令和3年度全国ひとり親世帯等調査結果報告」によると、母子家庭、父子家庭の世帯において、子どもが0歳~2歳の時に離婚している割合が全体の約4割と非常に多いことがわかります。続いて多いのが、子どもが3歳~5歳の間となっています。[*1]
産後2年間が一番離婚率が高いのです。
また、ベネッセ教育総合研究所の「第1回妊娠出産子育て基本調査報告書・フォローアップ調査(1歳児期)報告書」のデータを見てみると、「配偶者といると本当に愛していると実感する」と妊娠期の妻では74.8%が「あてはまる」と回答していますが、1歳児期には35.7%へと、妻の夫への愛情が、産後1年経つ頃には、3割近く落ち込んでいることがわかります。また、夫も妊娠期には74.5%が「あてはまる」と回答していますが、1歳児期には54.7%へと、夫の妻への愛情も2割近く落ち込んでいます。[*2]
このことから、産後クライシスに陥り、子どもが生まれてまだ幼いうちに離婚を選択している家庭がとても多いことが推測されます。
子どもが生まれて、とても大変ですがとても幸せでありたい時期に、とても辛い選択に苦しんでいることが考えられます。
しかし、産後クライシス期の離婚は、決して他人事ではなく、とても身近な事であると考える必要があるでしょう。
また、産後クライシスの時期に離婚を選択した夫婦の中には、産後クライシスの時期を過ぎた後に離婚したことを後悔している人も多いと言われているそうです。
産後クライシスはいつまで続く?
離婚など深刻な問題にも繋がる可能性のある「産後クライシス」ですが、一体いつまで続くものなのでしょうか。
産後クライシスの多くは、産後2~3年ほど続くといわれており、長い場合は4~5年ほど続くケースもあると言われています。
このように、陥ると数年間続くことが多い産後クライシスですが、時期が過ぎればそんなこともあったなと簡単に思い出になっていくものではなさそうです。
「夫婦間の親密な感情は、子どもが生まれてから2年の間は下がるが、3年を過ぎると下がったレベルのまま安定し推移していく」というデータがあります。[*3]
産後から約2年間が夫婦関係が大きく変化するターニングポイントになっていることがわかりますよね。
そして、産後クライシスを乗り越えたとしても、この数年の影響がその後に続いていく可能性が大いにあるということを覚えておきましょう。
大変な乳幼児期に「夫と二人で子育てした」と回答した女性たちの夫への愛情は回復し、「私一人で子育てした」と回答した女性たちの愛情は低迷するというデータがあります。[*4]
産後クライシスの時期を乗り越えたあとでも、「夫はあの時何もしてくれなかった」という気持ちをずっと抱えている方は少なくないでしょう。
実際私自身もこの黒く重たい気持ちをずっと抱えている一人なのです。
そしてこの気持ちが将来、熟年離婚の原因にもなる可能性もあると言われています。
反対に、産後クライシスの時期に「夫が大変な時期に支えてくれた」「助け合って大変な時期を乗り越えられた」と感じている場合は、熟年離婚は起きにくいとされています。
産後クライシスは、産後2~3年、長くて4~5年と言われていますが、その影響はとても大きいのです。乗り越えた先に愚痴や話のネタになって済めば良いですが、意外にそうでないことが多いのかもしれません。
産後クライシスになりやすい人の特徴
産後クライシスは、出産後の夫婦であれば誰でも陥る可能性がありますが、特になりやすい人がいます。
ここでは、特に女性で産後クライシスになりやすい人の特徴を見ていきましょう。
・真面目な性格である
几帳面であったり、責任感が強い人や完璧主義といった人は、産後クライシスになりやすいでしょう。
産後は、慣れない育児も待ったなしの上に、ホルモンバランスの乱れや心身の不調もあるでしょう。このような状態で育児も家事も完璧にこなそうとしては、疲労やストレスがどんどん溜まってしまいます。
赤ちゃんの安全は絶対に守った上で、家事やその他の事はどうにでもなるくらいに考えて、気楽にいられるくらいにすると良いでしょう。
・家族との関係が上手くいっていない
育児や家事のストレスがあるうえで、さらに家族との関係が上手くいかずにストレスを抱えると、産後クライシスになりやすいでしょう。
夫の両親や自分の両親との関係が上手くいっておらず、ストレスを感じていることがあったり、生まれた赤ちゃんとの新しい生活が始まったのに、夫が手助けにならなかったり、理解されていないと感じる。
そんな状況であれば、負担は増すばかりでストレスは増え、ますます産後クライシスになる危険性は高くなるでしょう。
・相談する相手がいない
初めての出産であればなおさら、育児は日々色んなことが起こり、不安な事やわからないことがたくさん出てきます。
そんな時、両親や友達などの育児の経験者に気軽に相談できる環境があれば、ストレスを軽減することにつながります。
しかし、このような環境がなく、相談できる相手がおらずネットで解決策を探るしかないような孤立した状況であると、不安やストレスから負担がかかり、産後クライシスになる可能性があります。
・長期間の里帰りや別居をする
里帰り出産などで、夫と別居するというご家庭も多いですよね。
里帰り出産は物理的にも精神的にもたくさんのメリットがあるので、悪いことではありません。
しかし、里帰りなどの別居が長期間に渡ると、夫との育児に対する温度差が大きくなり、それにより産後クライシスに陥る可能性があります。
妻は、妊娠中から出産後もずっと赤ちゃんと一緒に過ごしていますよね。ですが、夫には妊娠期間があるわけではありませんし、出産後も別居期間は子どもが生まれる前の独身の時と変わらない状態で、解放感のようなものを感じながら過ごしている可能性があります。
そんな夫との生活が再開したとき、夫はなかなか父親としての自覚が持てないということもあるでしょう。しかし、赤ちゃんとの暮らしは止まることなく日々進んで行きます。
そんな時に妻と夫は同じ環境にいるにもかかわらず、同じ感覚で物事を捉えられていないと感じるのではないでしょうか。
それによってストレスが溜まって、産後クライシスになる可能性があるのです。
・高齢出産をした
何歳以上だからということが問題なのではありませんが、出産時の年齢が高いほど、出産や育児が心身に与える負担が大きく、産後クライシスになる可能性が高くなると言われています。
高齢出産が問題なのではなく、心身の負担が大きければ大きいほど、産後クライシスのリスクは比例して高まるということを覚えておくと良いでしょう。
産後クライシス時の妻の特徴
妻における、産後クライシス時の特徴をご紹介します。
自分に当てはまることがないか、チェックをしてみましょう。
・小さなことで夫にイライラする
・感情のコントロールが上手くできず、攻撃的になる
・夫が育児や家事に非協力的で不満を感じる
・夫婦の触れ合いが苦痛に感じる
・夫への愛情が冷めたように感じる
このような症状が当てはまる場合は、産後クライシスの対処法を考えていく必要があるでしょう。
「産後クライシス」と「産後うつ」の違いは?
ここで、間違われやすい「産後クライシス」と「産後うつ」の違いについても見ておきましょう。
産後に発症する「産後うつ」は、出産の急激なホルモンバランスの変化や、慣れない子育ての不安などから、精神的に不安定になる病気のことです。
症状としては、妻本人だけが、些細なことでイライラしたり、涙が出てくるなどの他、食事が十分に取れなかったり、夜眠れないというものがあります。
対して、産後クライシスは病名ではありません。
産後クライシスは、産後に陥る夫婦の不仲を表す言葉が世間に定着したものです。
辛い問題であることは確かなので、ケアの必要はありますが、医学的な診断は付くことはなく、投薬治療の対象ではありません。
産後クライシスの対象は、妻のみではなく、夫婦二人の問題なのです。
産後クライシス時の夫の特徴
夫における、産後クライシス時の特徴をご紹介します。
自分に当てはまることがないか、チェックをしてみましょう。
・妻が子どもばかりに目を向けて、自分が放置されているように感じる
・妻がイライラしていて攻撃的で家でくつろげない
・自分はいなくてもいいのではないかと孤独感を感じる
妻における産後クライシスの特徴と同じように、自分自身に当てはまることがあれば、産後クライシスを乗り越えるためにも、対処法を具体的に考えていく必要があるでしょう。
産後クライシスを回避する方法は?
産後、どの夫婦にも陥る可能性がある産後クライシスですが、場合によっては離婚に至る可能性も少なくありません。
産後クライシスによる夫婦関係の悪化を避けるためにも対処法を知ることが大切です。
まずは、妻向けの対処法を見ていきましょう。
・自分の状況を客観的にみてみる
産後のイライラしてしまう原因は、夫のせいではなく、産後のホルモンバランスのせいかも知れません。感情的になりそうな時は、イライラしている原因を紙に書き出してみると冷静になれることがあります。
体調不良や精神的な不調からくるイライラが原因である場合は、夫に現状を具体的に伝えてみましょう。
・困っていることは夫へはっきりと伝える
困っていることがある場合は、自分の中に溜め込まずに、夫へはっきりと伝えるようにしましょう。
男性は具体的に言われないとわからないというのを聞いたことはありませんか?
しかし、責めるような言い方はせずに具体的に伝えて、まずは夫が協力してくれた時などは感謝を伝えることが、夫婦円満につながると言われているそうです。
・夫以外の第三者に相談する
夫婦での解決が困難な場合は、第三者に相談するのも良いでしょう。
自分や夫の家族や親しい友人、子育て経験のある人に相談して間に入ってもらうと、スムーズに解決する可能性があります。
周りに相談できる人がいない場合は、自治体の相談窓口を利用するという方法もあります。
自分の住んでいる自治体のホームページなどで調べてみましょう。
次に夫向けの対処法を見ていきましょう。
産後クライシスの悪化を防いだり、回避するためにも、夫の具体的な歩み寄りがとても重要です。対処法を理解して、行動に移していきましょう。
・妻の状況を理解する
産後の妻は、自分自身でも感情のコントロールができないほど大変な状態にあって、そんな中で毎日の育児や家事をしているということを理解することが大切です。
妻が以前と変わってしまったように感じることもあるかもしれませんが、それは産後うつや産後のホルモンバランスの変化が原因かもしれません。それに、その変化は赤ちゃんを必死に守るために必要なものなのかも知れません。
妻は命がけで子どもを産みました。そんな妻への感謝の気持ちを忘れずに、妻の変化に嘆くのではなく、理解して寄り添ってあげましょう。
・自分にできることを探して行動する
子育ても家事も、夫婦で共にやっていくことですよね。
妻は、産後で体力的にも精神的にも本当に大変な時期です。夫ができることを探して主体的に行動すると良いでしょう。
やりたい事、やりたくない事から選ぶのではありません。誰でも初めての事は大変なものです。調べながら、習いながらやってみてはどうでしょうか?
きっと初めから出来ているように見える妻も、そうやって母親として成長してきたのではないでしょうか。
最後に、夫婦双方に向けての対処法を見ていきましょう。
・自分たちの時間を大切にする
時間に追われるという状況は、誰にとっても負担がのしかかるものではないでしょうか。
自分だけの時間や夫婦の時間を意識的に作っていくと良いでしょう。
夫婦だけの時間を過ごせば、コミュニケーション不足によるすれ違いの解消にもなるかもしれません。お互いの誤解が解けるきっかけになるかも知れません。
また、二人だけの時間とはまた別に自分だけの一人時間も意識的につくるようにすると良いでしょう。
何も目的や用事がなくても良いと思うのです。自分だけの時間を自分だけに使うことで、気分転換ができたり、気持ちの整理ができてスッキリした気分を得られるでしょう。
産後クライシスを乗り越える為の、とても良い影響があるはずですよ。
まとめ
産後クライシスは、子どもが生まれた夫婦であれば、誰もが陥る可能性のある問題です。
夫婦それぞれが自分自身の状態や問題を冷静に理解し、お互いを支えあって、産後クライシスを乗り越え、離婚を回避しましょう。
産後クライシスは、単に夫婦関係の崩壊の危機を意味しているだけと考えるべきではありません。
親になることで夫婦関係に変化が生じる産後クライシスを悪いこととして捉えるのではなく、夫婦が成長するための変化と前向きに捉えて、この危機を通して、お互いが学び、夫婦として成長できるチャンスと考えてみてはどうでしょうか?
この先の未来、子どもの成長を共に分かち合える、絆の強い夫婦でいられますように。
参照
[*1] 厚生労働省の「令和3年度全国ひとり親世帯等調査結果報告」
[*2] ベネッセ教育総合研究所の「第1回妊娠出産子育て基本調査報告書・フォローアップ調査(1歳児期)報告書」
[*3] 親になることにともなう夫婦関係の変化|小野寺敦子|発達心理学
[*4]パパとママが描くみらい手帳